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物理的にUIを分けるという選択

May 23, 2025

サムネイルはSPATIALIZERという作品のプロトタイプ。空間を音に変えるという機能上、捉えている空間の情報と、音そのものの情報を、ディスプレイ自体をわけて表示するというアイデアがあった(結局予算の都合上一つになっちゃったんだけど)。あの時考えていた、「物理的にUIを分ける」というアプローチについて、最近のプロダクト動向を見ていて思ったことをまとめる。

最近登場したFujifilmの「X-Half」や、Sigmaの「BF」など、一つの筐体に複数のディスプレイを搭載するプロダクトが見られる。これは単に画面を増やすというトレンド的な話ではなく、情報や操作の役割を物理的に分けることで、操作体験を根本から再設計しようとする動きだと見ている。

たとえばX-Halfは、デジタルカメラでありながら、フィルムのような巻き上げ操作や「撮影後すぐに見られない」という体験をあえて導入している。小さなサブディスプレイには、使用中のフィルムシミュレーションが表示されるだけで、メインの表示や操作とは明確に分離されている。見かけのUIにとどまらず、フィルムをディスプレイを用いて擬似的に物体化しているのだ。

このような設計には、視線の移動だけで文脈を切り替えられる、認知負荷の軽減誤操作の抑制といった効果もあると考えられる。情報を「どこに表示するか」は、ユーザーにとっての意味や役割の理解に直結する。スマートフォンの登場によって、一つの画面にインターフェースを詰め込むという動きが一定化する中で、ハードウェアそのものから設計できるプロダクトならではの設計思想とも言える。

近い話は、PC作業におけるマルチディスプレイがこれに当たる。単に作業領域を拡張するだけでなく、「左はチャット」「中央は作業画面」「右は資料」といった具合に、ディスプレイごとに意味が分かれ、作業の流れが自然に整理される。これにより、画面切り替えの操作が不要になり、思考が中断されにくくなる。

つまり、物理的な分離が、思考の分離を助けている。情報設計において「どこに表示するか」は「何を伝えたいか」と同じくらい重要だ。

とはいえ、「カメラ」というプロダクトにおいては、マルチディスプレイは早期に採用されていたというのも背景にあると思う。プロユース向けの一眼レフカメラでは、メインの背面ディスプレイに加えて、シャッター付近にサブディスプレイが搭載され、撮影に必要な情報のみ切り出して表示される。高機能化・複雑化する一眼レフカメラにおいて、シャッターを切るという行為だけに集中させるための情報の切り分けと捉えられる。

Hasselblad X2D 100Cのフルカラートップディスプレイ

canon EOS R5のドットマトリクス表示パネル

ただ、sigma BFのような、機能も操作体系もかなりシンプルに切り出したプロダクトにおいてもサブディスプレイが採用されるようになったのは、個人的に大きな動きだと捉えている。一つのフレームに抱えきれないほどに溢れた情報量に対し、仕方なくもう一つフレームを設けるといった判断、というよりかは、絞り値やシャッタースピード、ISO感度といった撮影におけるコアとなる情報を、一つのカメラパーツとして物体化させる動きなのではないかと感じている。

これらのインターフェースに見られるのは、単なる“見やすさ”や“圧縮性”ではなく、身体的な操作感や物理空間的な意味づけまで含めたハード・ソフト相互作用的設計である。ディスプレイを単なる情報提示メディアと捉えず、しかるべき情報の粒度に応じて、物理的に切り分ける、ハードウェアにおけるインターフェース設計手法の一つのアプローチだと考えている。

https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/12389
https://www.hasselblad.com/ja-jp/x-system/x2d-100c/
https://personal.canon.jp/product/camera/eos/r5
https://www.sigma-global.com/jp/cameras/bf/

あとがき

実は最近制作しているプロダクトが、X halfとかBFにあるようなピル型のディスプレイを搭載しているので、勝手に親近感湧いている。四角ではなく、ピル型っていいよね...形としてかわいいし、ディスプレイっぽさを抜け出すための一つの解決策かも。ピル型ってUIのボタンとかにもよく使われる形状だからってのもあるのかなぁ。