SPATIALIZER

空間を奏でる楽器

  • 概要

    卒業制作

  • 期間

    2023.01 - 02

空間を奏でる楽器

1.その場で生まれる音との一期一会

SPATIALIZERは、置かれた空間の凹凸や人の配置を音に変換する。通常の楽器のように音色や音源を固有に持たず、この楽器が置かれた空間から音を生み出す。置かれた場所や、時間に応じて音色が変化していくため、全く同じ音は存在せず、その場、その瞬間に生まれる音との一期一会を楽しむ楽器である。普段歩き慣れた散歩道や、人が自由に動き回るクラブ、静寂とした竹林など、それぞれの環境に持っていくことで、その空間ならではの音が生まれていく。その場の状況に合わせて演奏を行う、即興演奏という手法があるが、この楽器は音そのものにも即興性を生み出し、より空間との親和性を高め、空間と人と音が互いに干渉し合うことで、自らが空間に融合したような空間・音楽体験を目指した。

2.開発

卒業制作に向けて制作していたSPATIALIZED MODULE(以下旧モデル)は、当初目標としていた空間を音にするシステムは組み込めたものの、楽器としての演奏性や、空間と音の関係性について深めきれていなかった。そこで、改めて「空間の状況を音に反映するシンセサイザー」として設計し直すことで、楽器としての立ち位置を確立した。

2-1.インターフェースの検討

旧モデルでは、MIDI入力による演奏を前提としていたが、その都度MIDIデバイスを用意する必要があり、利便性が低かった。そこで、フルサイズキーボードを組み込んだシンセサイザーとして設計をしなおした。キーボードに加えてスピーカー、コントロールノブ、ディスプレイを搭載することで、単体でより迫力のある演奏が可能となる。
各コンポーネントの配置を見直し、より使いやすいレイアウトを検討した。また、スピーカーを演奏者側と空間側に2つ設置することで、楽器を囲む人々に確実に音が伝わるようにした。


2-2.外装の検討

旧モデルではボックス状の、いわゆるモジュール型の楽器を目指していたが、シンセサイザーとしての見た目を追求した。空間を取り込む楽器というコンセプトのもと、空間側に大きく開いたフロントと、手前のキーボードに向かって滑らかにつながる外装を検討した。






2-3.制作

一番の課題は、トップパネルの曲線形状だった。当初アルミ板を用いる案もあったが、予算的に合わないのと本体の重量が重くなってしまうことから、加工のしやすいMDF板を用いて制作を行った。スチームアイロンと濡れ雑巾を使ってMDFを少しずつ湿らせながら曲げていき、曲線形状を維持できるように何度も実験を行い、最終的に理想としていた形状が出来上がった。







ベースの形状が出来上がったあと、全体の塗装を行った。LiDARが組み込まれている部分をオレンジ色のアクセントカラーにすることで、どこが音に直接的に影響するのかわかりやすいようなカラーリングにした。




3.SPATIALIZER

空間のかたちを音源とする電子楽器。内蔵された音源によって奏でるのではなく、今あなたがいるその空間から初めて音が生まれていく。
この楽器を置いた場所、時間によって唯一の音が生まれるため、完全に同じ音は存在せず、常に新しい音との出会いが楽しめる。また、人の位置によっても空間は変化するため、誰でも空間の中にさえいれば演奏に関わることができる。いつでも、どこでも音楽が楽しめる昨今、この瞬間、ここでしか生まれない音楽との出会いを楽しむ楽器である。

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